クリシェ(半音階的な和声進行)の基本理論から実践的な活用方法まで詳しく解説します。アニソンやJ-POPでの使用例、DTMでの作成方法も紹介しています。
クリシェとは?印象的な効果を生む半音階進行
クリシェ(Cliche)とは、コード進行の中で半音階的に上行または下行する声部を持つ和声技法です。フランス語で「常套句」を意味する言葉ですが、音楽では「印象的な和声進行」として親しまれています。
基本的な仕組み
コード:Am → Am/G# → Am/G → Am/F#
動き:内声でA-G#-G-F#の半音階下行
この技法により、滑らかで印象深い和声の流れを作り出すことができます。
なぜクリシェが効果的なのか?
クリシェの効果:
- 滑らかな進行感:半音階の動きが自然な流れを生む
- 緊張と解決:段階的な変化で感情の起伏を表現
- 印象的な響き:聴き手の記憶に残りやすい
- 楽曲の方向性:上行・下行で異なる感情を演出
クリシェの種類と特徴
1. 下行クリシェ(Descending Cliche)
最も一般的なタイプで、半音階的に下降する進行です。
Amクリシェの例
Am → Am/G# → Am/G → Am/F# → F
特徴:
- 憂いや切なさを表現
- バラードやスローテンポ楽曲に最適
- 感情的な盛り上がりを演出
2. 上行クリシェ(Ascending Cliche)
半音階的に上昇する進行で、希望や高揚感を表現します。
Cクリシェの例
C → C/D → C/D# → C/E → F
特徴:
- 明るさや希望を表現
- サビへの導入に効果的
- エネルギーの蓄積を演出
3. 複合クリシェ
複数の声部で同時に半音階運動を行う高度な技法です。
例
Am → G#dim7 → Am/G → F#m7b5 → F
特徴:
- 非常に豊かな和声感
- ジャズやクラシック音楽的
- 上級者向けの技法

ジャンル別クリシェ活用法
アニソン・J-POP
Aメロでの使用例:
C → C/B → Am → Am/G → F → G → C
サビ前での使用例:
Dm → Dm/C# → Dm/C → Dm/B → G → G7
これらのパターンはアニソンで頻繁に使われ、聴き手に強い印象を与えます。
バラード・スローテンポ楽曲
感情表現重視のパターン
Am → Am/G# → C/G → F#m7b5 → F → G → C
ゆったりとしたテンポで各コードをじっくり響かせることで、深い感情表現が可能になります。
ロック・アップテンポ楽曲
推進力重視のパターン
Em → Em/D# → Em/D → Em/C# → C → D → Em
速いテンポでもクリシェの効果を活かし、楽曲に深みを与えます。

DTMでの実践的な作成方法
Logic Proでの打ち込み手順
Step 1: 基本コードを設定
– まず通常のコード進行を作成
– 4つのコードで8小節程度
Step 2: クリシェラインを作成
– 内声に半音階的な動きを追加
– 一つの声部に集中して作業
Step 3: ボイシング調整
– 他の声部との兼ね合いを調整
– 不協和音の解決を意識
ボイシングのコツ
効果的なボイシング:
- 内声で動かす:最高音や最低音ではなく内側の声部
- 一つずつ動かす:複数の声部を同時に動かさない
- 解決を意識:不協和音は適切に解決させる
- 楽器選択:クリシェラインが聞こえやすい楽器を選ぶ
楽器別アプローチ
ピアノ・キーボード
- 右手でクリシェライン
- 左手でベース音
- アルペジオ奏法で効果的
ギター
- フィンガーピッキングで表現
- 開放弦を活用
- カポタストで調整
ストリングス
- ヴィオラで内声
- レガートで滑らかに
- ディヴィジで声部分割
合唱・声楽
- アルトパートで実行
- 母音で歌いやすく
- ブレス位置に注意

有名楽曲でのクリシェ使用例
クラシック音楽での起源
クリシェはバロック時代から使われている伝統的な技法です。特にJ.S.バッハの作品には多くのクリシェが見られ、現代のポピュラー音楽にも大きな影響を与えています。
ポピュラー音楽での展開
- ビートルズ:「Something」「While My Guitar Gently Weeps」
- 日本のバラード:多くの楽曲でAmクリシェが使用
- アニソン:感情的な場面での定番技法
作曲・アレンジでの応用テクニック
1. リハーモナイゼーション
原型:Am → F → G → C
クリシェ版:Am → Am/G# → Am/G → Am/F# → F → G → C
既存の進行にクリシェを追加することで、より洗練された響きに変化させます。
2. 転調との組み合わせ
例:Am → Am/G# → C/G → F#dim7 → F → G → C
半音階進行を利用して自然な転調を実現
3. テンションコードとの融合
例:Am9 → Am9/G# → Am7/G → Am6/F# → F△7
テンションを加えることでより現代的な響きに

注意点とよくある間違い
避けるべきポイント
注意事項:
- 使いすぎない:1曲に1-2箇所程度が効果的
- メロディーとの衝突:歌メロとクリシェラインの音程に注意
- 不自然な解決:半音階の終着点を明確に
- リズムの単調化:クリシェに頼りすぎない
効果的な使用タイミング
- Aメロ→Bメロ:セクション間の橋渡し
- サビ前:緊張感の演出
- 間奏部分:楽器演奏での表現力向上
- アウトロ:印象的な終わり方

練習問題:実際に作ってみよう
初級編:基本のAmクリシェ
Am → Am/G# → Am/G → Am/F# → F → G → C
中級編:Cクリシェ
C → C/D → C/D# → C/E → F → G → C
上級編:複合クリシェ
Am → G#dim7 → C/G → F#m7b5 → F → E7 → Am
まとめ:クリシェで楽曲に深みを加えよう
クリシェは、シンプルな半音階運動で楽曲に劇的な変化をもたらす強力な技法です。適切に使用することで、楽曲の感情表現力を大幅に向上させることができます。
今回学んだポイント:
- 上行・下行クリシェの使い分け
- ジャンルに応じた活用方法
- DTMでの実践的な作成方法
- 効果的な使用タイミング
ぜひあなたの楽曲制作にもクリシェを取り入れて、より印象深く感情豊かな音楽表現を目指してください!
