「自分の楽曲が、プロの曲と比べて音が小さい…」「音圧を上げたいけど、高価なプラグインは買えない…」
DTM初心者の最大の悩みの一つが「音圧」です。音圧が低いと、Spotify、YouTube、Apple Musicなどのストリーミングプラットフォームで他の曲と並んだときに、明らかに音量が小さく聴こえてしまいます。
でも安心してください。無料でも十分に実用的なリミッター・マキシマイザープラグインは存在します。この記事では、DTM初心者でも今すぐ使える無料プラグイン10選と、正しい使い方を徹底解説します。
音圧とは?リミッター・マキシマイザーの基礎知識
音圧が高い楽曲は、ストリーミングサービスで他の曲と並んだときに「埋もれない」「インパクトがある」と感じられます。
LUFS値で測る現代の音圧基準
- -14 LUFS: Spotify、YouTube、Apple Musicの推奨値
- -16 LUFS: ダイナミックな音楽(ジャズ、クラシック)
- -8〜-10 LUFS: EDM、ヒップホップなど音圧重視ジャンル
主要ストリーミングサービスのLUFS目標値
- Spotify: -14 LUFS(推奨)
- YouTube: -13〜-15 LUFS
- Apple Music: -16 LUFS(Sound Check適用時)
- Amazon Music: -14 LUFS
- Tidal: -14 LUFS
過度な音圧競争の問題点
2000年代の「ラウドネス戦争」により、多くの楽曲が-6 LUFS以下まで圧縮され、音質が犠牲になりました。現在は各ストリーミングサービスが自動ノーマライゼーション機能を搭載しているため、過度に音圧を上げても自動的に音量が下げられます。
目標: -14 LUFS前後で、ダイナミクスを保ちながら適切な音圧を確保すること
リミッターとマキシマイザーの違い
- 超高速のコンプレッサー(レシオ∞:1)
- 主な目的: 0dBFSを超えないようにする保護機能
- トランジェント(瞬間的なピーク)のコントロール
- リミッター + ゲイン調整 + 音質補正アルゴリズム
- 主な目的: 音圧を最大化しながら音質を維持
- ルックアヘッド機能でピークを予測処理
使い分けのポイント
- リミッター: トラック単位の保護、ドラムやベースのピーク管理
- マキシマイザー: マスタートラックでの最終音圧調整
無料リミッター・マキシマイザープラグイン10選
ここからは、実際に使える無料のリミッター・マキシマイザープラグインを紹介します。すべてWindows/Mac対応、VST/AU形式で、DAWに簡単に導入できます。
1. LoudMax(推奨度: ★★★★★)
LoudMax – 最も定番の無料マキシマイザー
開発元: Thomas Mundt
対応OS: Windows、Mac(VST/AU)
特徴:
- シンプルなインターフェースで初心者でも直感的に使える
- 透明感のあるリミッティング処理
- ISP(Inter-Sample Peak)検出機能搭載
- CPU負荷が軽い
おすすめ設定:
- Threshold: -0.3dB
- Release: 50ms〜100ms
- Link: 100%(ステレオリンク)
向いているジャンル: ポップス、ロック、エレクトロニカ全般
2. TDR Limiter 6 GE(推奨度: ★★★★★)
TDR Limiter 6 GE – プロ品質の無料リミッター
開発元: Tokyo Dawn Records
対応OS: Windows、Mac(VST/AU/AAX)
特徴:
- 6つのリミッターステージを備えた高度な設計
- True Peak検出機能(EBU R128準拠)
- 詳細なメータリング機能
- 有料版並みの音質
おすすめ設定:
- Ceiling: -0.5dB(True Peak対応)
- Mode: Transparent(透明性重視)
- Peak Extension: Medium
向いているジャンル: マスタリング全般、配信用音源
3. W1 Limiter(推奨度: ★★★★☆)
W1 Limiter – 定番の老舗リミッター
開発元: George Yohng
対応OS: Windows、Mac(VST/AU)
特徴:
- 長年愛用されている定番プラグイン
- アグレッシブなリミッティング処理
- Softness機能でナチュラルさを調整可能
- 直感的なUI
おすすめ設定:
- Threshold: -0.2dB
- Release: 10〜50ms
- Softness: 3〜5(音楽ジャンルによる)
向いているジャンル: EDM、ダンスミュージック、音圧重視の楽曲
4. Frontier(推奨度: ★★★★☆)
Frontier – D16 Groupのフリーリミッター
開発元: D16 Group
対応OS: Windows、Mac(VST/AU)
特徴:
- 有料メーカーが提供する高品質フリーウェア
- ブリックウォールリミッター
- リアルタイムグラフィカルメーター
- オーバーサンプリング機能搭載
おすすめ設定:
- Ceiling: -0.3dB
- Oversampling: 2x
- Auto Gain: ON
向いているジャンル: ロック、メタル、パンク
5. Youlean Loudness Meter(推奨度: ★★★★★)
Youlean Loudness Meter – LUFS測定の必須ツール
開発元: Youlean
対応OS: Windows、Mac(VST/AU/AAX)
特徴:
- LUFS、True Peak、ダイナミックレンジを正確に測定
- EBU R128、ATSC A/85、ITU-R BS.1770準拠
- ストリーミングプラットフォーム別プリセット
- リアルタイムモニタリング
おすすめ設定:
- Preset: Spotify、YouTube等のターゲットを選択
- Integration: Short Term(9秒間の平均)
- True Peak: ON(-1dBTP推奨)
向いているジャンル: 全ジャンル必須(測定用)
注意: リミッター機能はないが、音圧測定に必須のプラグイン
6. Limiter No6(推奨度: ★★★★☆)
Limiter No6 – Vladg/Sound製の多機能リミッター
開発元: Vladg/Sound
対応OS: Windows、Mac(VST/AU)
特徴:
- 5バンドのマルチバンドリミッター
- HF(高域)リミッター搭載
- ISP(Inter-Sample Peak)検出
- 詳細なビジュアルフィードバック
おすすめ設定:
- Mode: Modern(透明性重視)
- Ceiling: -0.3dB
- ISP: ON
向いているジャンル: マスタリング、エレクトロニカ
7. Molot(推奨度: ★★★☆☆)
Molot – ビンテージスタイルのコンプレッサー/リミッター
開発元: Vladg/Sound
対応OS: Windows、Mac(VST/AU)
特徴:
- アナログライクなキャラクター
- サチュレーション機能搭載
- 複数のリミッターモード
- 温かみのあるサウンド
おすすめ設定:
- Mode: Nuke(音圧重視)
- Ratio: ∞:1(リミッターモード)
- Release: Auto
向いているジャンル: ロック、ヒップホップ、ビンテージサウンド
8. SIR Audio Tools – StandardCLIP(推奨度: ★★★☆☆)
StandardCLIP – トランジェント特化型リミッター
開発元: SIR Audio Tools
対応OS: Windows、Mac(VST/AU)
特徴:
- トランジェント(瞬間的なピーク)処理に特化
- 軽量で動作が速い
- シンプルなパラメーター
- クリーンなリミッティング
おすすめ設定:
- Ceiling: -0.1dB
- Clip: Soft(ナチュラルなクリッピング)
向いているジャンル: ドラムバス、パーカッション処理
9. Klanghelm DC1A3(推奨度: ★★★★☆)
DC1A3 – シンプル操作のコンプレッサー/リミッター
開発元: Klanghelm
対応OS: Windows、Mac(VST/AU)
特徴:
- たった2つのノブで操作できる簡潔さ
- アナログモデリングの温かみ
- Dual-Mono/Stereo切り替え可能
- ミキシング段階でも使いやすい
おすすめ設定:
- Input: 音圧に応じて調整
- Output: ゲイン補正
- Mode: Stereo Link
向いているジャンル: ボーカル、バストラック、グルーコンプ用途
10. Voxengo Elephant(推奨度: ★★★☆☆)
Voxengo Elephant – 老舗メーカーのマキシマイザー
開発元: Voxengo
対応OS: Windows、Mac(VST/AU)
特徴:
- 多彩なリミッターモード(10種類以上)
- ディザリング機能搭載
- 詳細なメーター表示
- プリセット豊富
おすすめ設定:
- Mode: Modern(透明性)またはPunch(音圧重視)
- Ceiling: -0.3dB
- Release: 5〜10ms
向いているジャンル: 全ジャンル対応、マスタリング
注意: 無料版は旧バージョン(v4)で、最新版は有料
リミッター・マキシマイザーの正しい使い方
プラグインを導入しただけでは、音圧は上がりません。正しい設定と手順が重要です。
マスタートラックでの基本設定手順
ステップ1: ミックスの整理
- ヘッドルームの確保: マスタートラックのピークが-6dB〜-3dB程度になるよう調整
- 周波数バランスの最適化: EQで低域のモコモコ、高域のキンキンを除去
- ダイナミクスの整理: コンプレッサーで音量差を均一化
ミックス段階で整理すべき周波数帯域
- 20Hz〜50Hz: ハイパスフィルターでカット(不要な超低域ノイズ除去)
- 100Hz〜200Hz: ベースとキックの住み分け(モコモコの原因)
- 2kHz〜5kHz: ボーカルとギターの競合を調整
- 8kHz以上: 過度なシンバルやハイハットを抑える
ステップ2: リミッター/マキシマイザーの挿入
- マスタートラックの最後のスロットにプラグインを挿入
- リミッターのCeiling(天井)を-0.3dB〜-0.5dBに設定
- True Peak検出をONにする(ストリーミング配信では必須)
ポイント: True Peakとは?
デジタル音源をアナログ変換する際、サンプル間で発生する「隠れたピーク」をInter-Sample Peak(ISP)と呼びます。これが0dBFSを超えると、再生機器で音割れが発生します。
True Peak検出機能を使えば、-1dBTP(True Peak)以下に抑えることで、あらゆる再生環境で音割れを防げます。
ステップ3: ゲイン調整で音圧を上げる
- リミッターのInput Gainまたはゲインリダクションを少しずつ上げる
- ゲインリダクションメーターが3〜6dB程度動くまで調整
- 聴感で「歪み」「潰れ」がないかチェック
注意: 過度なゲインリダクションのリスク
- 10dB以上のリダクション: 音が明らかに歪み、ダイナミクスが失われる
- リミッターだけで音圧を稼ごうとしない: ミックス段階でのバランス調整が最優先
ステップ4: Release(リリースタイム)の調整
- 短いRelease(5〜20ms): アグレッシブで音圧が高いが、歪みやすい
- 長いRelease(50〜100ms): ナチュラルで透明感があるが、音圧は控えめ
- 楽曲のテンポとリズムに合わせて調整
ポイント: Auto Releaseを活用
多くのリミッターにはAuto Release(自動リリース)機能があります。これは楽曲の音楽的な変化に応じて、最適なリリースタイムを自動調整してくれる便利機能です。
迷ったら、まずAuto Releaseを試してみましょう。
ステップ5: LUFS値の確認
- Youlean Loudness MeterなどのLUFSメーターを挿入
- 楽曲全体を再生し、Integrated LUFSを確認
- ターゲットの-14 LUFS前後になるよう微調整
ジャンル別LUFS目標値
- ポップス: -10〜-14 LUFS
- ロック: -9〜-12 LUFS
- EDM/ダンス: -8〜-10 LUFS
- ヒップホップ: -9〜-11 LUFS
- アコースティック/ジャズ: -14〜-16 LUFS
- クラシック: -18〜-23 LUFS
よくある失敗パターンと対処法
原因: ミックス段階での音量バランスが悪い
対処法:
- 各トラックの音量バランスを見直す
- 不要な低域をEQでカット
- コンプレッサーで音量のばらつきを整える
原因: Inter-Sample Peak(ISP)による隠れたピーク
対処法:
- Ceilingを-0.3dB〜-0.5dBに設定
- True Peak検出機能をON
- True Peakを-1dBTP以下に維持
原因: リミッターが音楽的な変化を追いかけられていない
対処法:
- Releaseを50ms以上に設定
- Auto Releaseを有効化
- 楽曲のBPMに合わせた設定を試す
音圧を上げるための総合チェックリスト
ミックス段階(リミッター前)
- □ マスタートラックのピークが-6dB〜-3dB
- □ 各トラックの音量バランスが適切
- □ 不要な低域(20Hz〜50Hz)をカット
- □ ボーカルとメイン楽器が明瞭に聴こえる
- □ コンプレッサーで音量のばらつきを整理
- □ EQで周波数の競合を解消
- □ リバーブ/ディレイが過剰でない
リミッター/マキシマイザー設定
- □ Ceilingを-0.3dB〜-0.5dBに設定
- □ True Peak検出をON(-1dBTP以下)
- □ ゲインリダクションが3〜6dB程度
- □ Releaseが適切(50ms〜100ms、またはAuto)
- □ ステレオリンクが100%
- □ オーバーサンプリングをON(CPU許容範囲で)
最終確認(歪みチェック)
- □ Integrated LUFSがターゲット値(-14 LUFS前後)
- □ True Peakが-1dBTP以下
- □ ヘッドフォンで歪みがないか確認
- □ スピーカーで全体のバランスを確認
- □ スマートフォンで再生して違和感がないか
- □ 他の楽曲と比較して音量が適切か
最重要チェック: A/Bテストを必ず実行
リミッターをON/OFFして、音質の変化を聴き比べましょう。リミッターをONにしたときに、「音が明らかに悪くなった」と感じたら、設定を見直す必要があります。
音圧を上げることは重要ですが、音質を犠牲にしてまで上げる価値はありません。
まとめ: 無料プラグインでも十分な音圧は実現できる
この記事で紹介した無料リミッター・マキシマイザープラグイン10選を活用すれば、初心者でもプロレベルの音圧を実現できます。
音圧アップの3つの鉄則
- ミックス段階でのバランスが最優先: リミッターは最後の仕上げ
- LUFS値を基準に調整: -14 LUFS前後を目標に
- 音質を犠牲にしない: 過度な音圧競争は避ける
今すぐ試してほしいプラグイン
- 初心者向け: LoudMax(シンプルで使いやすい)
- マスタリング品質: TDR Limiter 6 GE(プロ仕様)
- LUFS測定: Youlean Loudness Meter(必須ツール)
まずはこの3つをダウンロードして、実際に自分の楽曲で試してみてください。無料でも、正しい知識と設定があれば、商業レベルの音圧は実現可能です。
あなたの楽曲が、ストリーミングサービスで他の曲に埋もれず、しっかりと存在感を発揮できるよう、この記事が役立てば幸いです。








