DTMで音楽制作を始めたいけど、モニターヘッドホンってどう選べばいいの?そんな疑問を持っている方は多いのではないでしょうか。
モニターヘッドホンは、音楽制作において最も重要な機材の一つです。正確な音を聴き取れなければ、良いミックスやマスタリングはできません。しかし、密閉型と開放型の違いや、数多くの機種の中からどれを選べばいいのか迷ってしまいますよね。
この記事では、DTM歴10年以上の筆者が、モニターヘッドホンの基礎知識から選び方、おすすめ12機種まで徹底的に解説します。業界標準のSONY MDR-CD900STから、beyerdynamic、AKG、Audio-Technicaなどの定番機種を価格帯別に比較。あなたの用途と予算に合った最適な1台が見つかるはずです。
この記事で分かること
- モニターヘッドホンとリスニング用の決定的な違い
- 密閉型と開放型のメリット・デメリット
- 用途別・予算別のおすすめ機種12選
- 人気機種の詳細レビューと比較
- ヘッドホンアンプの必要性と選び方
モニターヘッドホンとは?リスニング用との決定的な違い
まず最初に理解しておきたいのが、「モニターヘッドホン」と「リスニング用ヘッドホン」の違いです。この違いを知らずに購入すると、音楽制作で失敗する可能性があります。
フラットな周波数特性の重要性
モニターヘッドホンの最大の特徴は、周波数特性がフラット(平坦)であることです。これは、低音から高音まですべての音域を均等に再生するという意味です。
一方、リスニング用ヘッドホンは「聴いて楽しい音」を目指して設計されています。例えば:
- 低音が強調されている(迫力のある音)
- 高音が煌びやかに調整されている(クリアな音)
- 中音域が前に出る(ボーカルが聴きやすい)
これらの特性は音楽を楽しむには最適ですが、DTMでの音楽制作には向きません。
なぜフラットが重要なのか?
DTMでは、制作した音楽がどんな環境でも同じように聴こえることが理想です。もし低音が強調されたヘッドホンでミックスすると、「ヘッドホンでは丁度良かったのに、スピーカーで聴くと低音がスカスカ」という問題が起きます。
フラットな周波数特性のヘッドホンを使えば、音源の「素の音」を正確に把握でき、どんな環境でもバランスの取れたミックスを作れるのです。
モニターヘッドホンの主な用途
モニターヘッドホンは、以下のような場面で使用されます:
- レコーディング時のモニタリング:歌や楽器を録音する際に、演奏を確認する
- ミックス作業:各トラックの音量バランスや定位を調整する
- マスタリング:最終的な音質調整と全体のバランスを整える
- 細かい音の確認:ノイズや不要な音を見つけ出す
- 深夜の作業:近隣への配慮が必要な時間帯の制作
プロのレコーディングスタジオでは、モニタースピーカーとモニターヘッドホンを併用して、多角的に音をチェックしています。
密閉型vs開放型:それぞれの特徴を徹底比較
モニターヘッドホンには大きく分けて「密閉型(クローズド型)」と「開放型(オープン型)」の2タイプがあります。それぞれに明確な特徴があり、用途によって使い分けることが重要です。
密閉型モニターヘッドホンの特徴
密閉型は、イヤーカップが完全に密閉されており、外部の音を遮断し、内部の音が外に漏れない構造です。
密閉型のメリット
- 遮音性が高い:外部の音が入りにくく、集中して作業できる
- 音漏れが少ない:レコーディング時にマイクに音が入らない
- 低音の再現力が高い:密閉構造により低音がしっかり出る
- 汎用性が高い:レコーディングからミックスまで幅広く使える
- 外出先でも使える:音漏れしないので移動中も使用可能
密閉型のデメリット
- 閉塞感がある:長時間使用すると疲れやすい
- 音場が狭い:音の広がりや立体感が少ない
- こもった感じになることがある:内部反射により音が篭りがち
- 熱がこもる:夏場は特に耳周りが暑くなる
代表的な密閉型モニターヘッドホン:
- SONY MDR-CD900ST
- Audio-Technica ATH-M50x
- beyerdynamic DT 770 PRO
- YAMAHA HPH-MT8
開放型モニターヘッドホンの特徴
開放型は、イヤーカップの外側がメッシュやグリル構造になっており、空気が通り抜ける構造です。
開放型のメリット
- 自然な音場:スピーカーで聴いているような広がりのある音
- 高域の伸びが良い:開放的で透明感のある高音
- 長時間使用しても疲れにくい:閉塞感がなく快適
- 解像度が高い:細かい音まで明瞭に聴き取れる
- 定位が掴みやすい:ステレオイメージの確認に優れる
開放型のデメリット
- 音漏れが大きい:レコーディングには使えない
- 外部の音が入る:静かな環境が必要
- 低音が弱い:密閉型に比べて低域の迫力が少ない
- 外出先では使えない:周囲に音が漏れるため不向き
代表的な開放型モニターヘッドホン:
- Audio-Technica ATH-R70x
- beyerdynamic DT 990 PRO
- AKG K701/K702
- SENNHEISER HD 600/650
半開放型(セミオープン)という選択肢
密閉型と開放型の中間に位置するのが「半開放型」です。
- beyerdynamic DT 880 PRO:密閉と開放の良いとこ取り
- AKG K240 Studio:低価格で入手できるバランス型
半開放型は、密閉型の低音再現力と開放型の音場の広さを両立させており、万能型として人気があります。ただし、音漏れは密閉型と開放型の中間程度なので、レコーディング時には注意が必要です。
DTM初心者にはどちらがおすすめ?
結論:DTM初心者にはまず「密閉型」をおすすめします
理由は以下の通りです:
- レコーディングにもミックスにも使える汎用性の高さ
- 外部の音を遮断できるため、集中しやすい
- 1台で様々な用途に対応できるコストパフォーマンス
- 音漏れしないので、時間帯を気にせず作業できる
開放型は、密閉型に慣れてから、ミックスやマスタリングの精度を上げたい時に追加購入するのが理想的です。
モニターヘッドホン選びの5つの重要ポイント
それでは、具体的にモニターヘッドホンを選ぶ際に、どんなポイントに注目すればいいのでしょうか?5つの重要な要素を解説します。
1. 周波数特性(Hz)
周波数特性は、再生できる音の高さの範囲を示します。例えば「5Hz〜35,000Hz」のように表記されます。
- 人間の可聴域:約20Hz〜20,000Hz
- DTMに理想的な範囲:10Hz〜30,000Hz以上
ただし、周波数特性が広ければ良いというわけではありません。重要なのはその範囲内でどれだけフラットに再生できるかです。
カタログスペックだけでなく、実際のレビューや周波数特性グラフを確認することをおすすめします。
2. インピーダンス(Ω/オーム)
インピーダンスは、ヘッドホンを鳴らすのに必要な電気抵抗の大きさです。
低インピーダンス(16〜80Ω)
- スマホやPC直挿しでも十分な音量
- オーディオインターフェースで扱いやすい
- 初心者におすすめ
代表機種:
- SONY MDR-CD900ST(63Ω)
- Audio-Technica ATH-M50x(38Ω)
高インピーダンス(80Ω以上)
- より高音質だが駆動力が必要
- 専用ヘッドホンアンプが必要な場合も
- 上級者向け
代表機種:
- beyerdynamic DT 770 PRO(250Ω版)
- Audio-Technica ATH-R70x(470Ω)
ポイント
オーディオインターフェースのヘッドホン出力で使用する場合、80Ω程度までなら問題なく駆動できることが多いです。しかし、250Ω以上の機種は専用のヘッドホンアンプがあると本来の性能を発揮できます。
3. 装着感と快適性
DTMでは長時間ヘッドホンを装着することが多いため、装着感は非常に重要です。
チェックポイント:
- 重量:200g〜350g程度が一般的。軽いほど疲れにくい
- イヤーパッドの素材:ベロア(布)は通気性が良く、レザーは遮音性が高い
- 側圧(締め付け):きつすぎると頭痛の原因に、緩すぎると音質が変わる
- ヘッドバンドの調整範囲:頭の大きさに合わせて調整できるか
可能であれば、実際に試着してから購入することをおすすめします。店頭で試せない場合は、レビューで装着感に関する情報を確認しましょう。
4. 耐久性とメンテナンス性
プロ用のモニターヘッドホンは、長期間の使用に耐える設計になっています。
確認すべき点:
- ケーブルの着脱:交換可能なリケーブル対応か
- 交換パーツの入手性:イヤーパッド、ヘッドバンドクッションなどが購入可能か
- ハウジングの素材:プラスチックか金属か
- 折りたたみ機構:可動部分は故障のリスクもある
業界標準のSONY MDR-CD900STが長年愛用されている理由の一つは、すべてのパーツが交換可能で、半永久的に使える設計だからです。
5. 価格とコストパフォーマンス
モニターヘッドホンの価格帯は幅広く、5,000円から10万円以上まであります。
価格帯の目安:
- 〜10,000円:入門用、サブ機として
- 10,000〜30,000円:メインで使える品質、最もコスパが良い
- 30,000円〜:プロ仕様、細部まで作り込まれた高音質
初めての購入なら、15,000〜25,000円程度の価格帯がおすすめです。この価格帯には、長年プロに愛用されている定番機種が多く、失敗が少ないです。
【価格帯別】おすすめモニターヘッドホン12選
それでは、実際におすすめのモニターヘッドホンを価格帯別に紹介していきます。
【1万円以下】コスパ重視の入門機3選
1. AKG K240 Studio(半開放型)
価格:約7,000円〜9,000円
- タイプ:半開放型
- インピーダンス:55Ω
- 周波数特性:15Hz〜25,000Hz
- 重量:約240g
特徴:
AKGの超ロングセラーモデル。1975年の発売以来、世界中のスタジオで使われ続けています。半開放型ならではの自然な音場と、密閉型に近い低音再現力を両立。この価格帯では圧倒的なコストパフォーマンスを誇ります。
こんな人におすすめ:
- DTMを始めたばかりの初心者
- 予算を抑えたいが音質は妥協したくない人
- セカンドヘッドホンとして
2. BEHRINGER HPS3000
価格:約3,000円〜4,000円
- タイプ:密閉型
- インピーダンス:32Ω
- 周波数特性:20Hz〜20,000Hz
- 重量:約200g
特徴:
とにかく安い!でも侮れない音質。レコーディング時のモニタリングやラフなミックス確認には十分使えます。SONY MDR-7506を意識した設計で、携帯性も良好。
こんな人におすすめ:
- とりあえず1台モニターヘッドホンが欲しい
- 予算が非常に限られている
- 屋外での録音用
3. Audio-Technica ATH-M20x
価格:約5,000円〜6,000円
- タイプ:密閉型
- インピーダンス:47Ω
- 周波数特性:15Hz〜20,000Hz
- 重量:約190g
特徴:
Audio-TechnicaのMシリーズエントリーモデル。上位機種のATH-M50xと同じ設計思想で作られており、低価格ながらフラットな音質を実現。遮音性も高く、レコーディング用途にも適しています。
こんな人におすすめ:
- Audio-Technicaの音が好きだが予算が限られている
- 軽量で疲れにくいヘッドホンが欲しい
【1〜3万円】定番の実力派モデル5選
この価格帯には、長年プロに愛用されている定番機種が揃っています。最初の1台として最もおすすめできる価格帯です。
4. SONY MDR-CD900ST(密閉型)
価格:約16,000円〜18,000円
- タイプ:密閉型
- インピーダンス:63Ω
- 周波数特性:5Hz〜30,000Hz
- 重量:約200g
特徴:
日本のレコーディングスタジオにおける絶対的な業界標準機種。1989年の発売以来、ソニーとCBSソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)が共同開発したプロ専用モデルです。
- すべてのパーツが交換可能で半永久的に使える
- 全国のレコーディングスタジオに設置されている
- 原音を正確に再現する忠実な音質
- やや硬めの音で、長時間使用では耳が疲れることも
こんな人におすすめ:
- プロと同じ環境で制作したい
- レコーディング重視
- 日本の音楽制作シーンのスタンダードを知りたい
MDR-CD900STの注意点
海外のスタジオではほとんど見かけない機種です。また、低域の表現が控えめで、最新の音楽制作トレンド(重低音重視の楽曲)には向かないという意見もあります。しかし、日本国内で制作する場合、多くのエンジニアがこの音を基準にしているため、持っておいて損はありません。
5. Audio-Technica ATH-M50x(密閉型)
価格:約15,000円〜18,000円
- タイプ:密閉型
- インピーダンス:38Ω
- 周波数特性:15Hz〜28,000Hz
- 重量:約285g
特徴:
海外で圧倒的な人気を誇る定番機種。MDR-CD900STに対抗する存在として、世界中のDTMerに愛用されています。
- 低域の再現性が非常に良く、現代的な音楽制作に最適
- やや低音寄りだがモニター用として十分フラット
- リケーブル対応で、ストレート/カール/ショートの3種類のケーブルが付属
- 90度回転するイヤーカップで携帯性も良好
こんな人におすすめ:
- 現代的なEDMやヒップホップ制作
- 海外の音楽制作トレンドを意識したい
- 持ち運びも考えている
6. beyerdynamic DT 770 PRO(密閉型)
価格:約18,000円〜22,000円(インピーダンスにより異なる)
- タイプ:密閉型
- インピーダンス:32Ω / 80Ω / 250Ω(3種類から選択)
- 周波数特性:5Hz〜35,000Hz
- 重量:約270g
特徴:
ドイツの老舗オーディオメーカーbeyerdynamic(ベイヤーダイナミック)の傑作。堅牢な作りと優れた音質で、プロからの信頼も厚い機種です。
- ベロア素材のイヤーパッドで長時間使用しても快適
- 密閉型ながら開放的な音場感
- 100Hz以下の低域がやや強調されているが、モニタリングには問題なし
- インピーダンス違いで3種類あり、用途に応じて選べる
インピーダンスによる違い:
- 32Ω版:スマホやタブレットでも使える。音量重視
- 80Ω版:バランスが良く、DTM用途に最適
- 250Ω版:最も高音質だが、ヘッドホンアンプ推奨
こんな人におすすめ:
- 長時間の作業でも疲れにくいヘッドホンが欲しい
- 密閉型でも開放的な音場が欲しい
- 堅牢で長く使える製品を求めている
7. YAMAHA HPH-MT8(密閉型)
価格:約20,000円〜23,000円
- タイプ:密閉型
- インピーダンス:37Ω
- 周波数特性:20Hz〜20,000Hz
- 重量:約360g
特徴:
YAMAHAが「打倒MDR-CD900ST」を目標に開発した対抗馬。各帯域の解像度や伸びが非常に優れています。
- MDR-CD900STより現代的で聴きやすい音
- 低域から高域までバランスが良い
- やや重いが、側圧は適度で装着感は悪くない
- 折りたたみ可能で携帯性も考慮
こんな人におすすめ:
- MDR-CD900STからのアップグレードを考えている
- YAMAHAの音響機器を使っている
- バランスの良い音質を求めている
8. AKG K702(開放型)
価格:約25,000円〜30,000円
- タイプ:開放型
- インピーダンス:62Ω
- 周波数特性:10Hz〜39,800Hz
- 重量:約235g
特徴:
開放型モニターヘッドホンの定番。広大な音場と高い解像度で、ミックス作業に最適な一台です。
- スピーカーで聴いているかのような自然な音場
- 定位感が非常に掴みやすい
- 中高域の解像度が特に優れている
- セルフアジャスト機構で装着が簡単
- リケーブル対応
こんな人におすすめ:
- ミックス・マスタリング専用機が欲しい
- 自然な音場感を重視
- 静かな環境で作業できる
注意
開放型なので音漏れが大きく、レコーディングには使えません。また、静かな環境が必要です。家族がいる環境や夜間の作業には向きません。
【3万円以上】プロ仕様のハイエンド機4選
より高品質な音を求めるなら、この価格帯がおすすめです。細部まで作り込まれた設計と、圧倒的な音質が特徴です。
9. SONY MDR-M1ST(密閉型)
価格:約35,000円〜40,000円
- タイプ:密閉型
- インピーダンス:24Ω
- 周波数特性:5Hz〜80,000Hz
- 重量:約215g
特徴:
MDR-CD900STの正統進化版として、オリジナルの設計チームが再集結して開発したモデル。
- ハイレゾ対応で、5Hz〜80,000Hzの超広帯域再生
- MDR-CD900STより低域がしっかり出る
- 高域も刺さらず聴きやすい
- 解像度が大幅に向上
- 現代の音楽制作に最適化された音作り
こんな人におすすめ:
- MDR-CD900STの音は知っているが、より現代的な音質が欲しい
- ハイレゾ音源を扱う
- プロレベルの制作環境を整えたい
10. Audio-Technica ATH-R70x(開放型)
価格:約40,000円〜45,000円
- タイプ:開放型
- インピーダンス:470Ω
- 周波数特性:5Hz〜40,000Hz
- 重量:約210g(ケーブル除く)
特徴:
Audio-Technicaのフラッグシップ開放型モニターヘッドホン。プロのミキシングエンジニアから絶賛される逸品です。
- 470Ωの高インピーダンスで、ノイズの影響を受けにくい
- 超軽量設計で、長時間使用でも疲れない
- 中高域の解像度が極めて高く、ボーカル処理に最適
- 30〜40Hzの超低域までしっかり再生
- フラットな周波数特性で、正確なモニタリングが可能
こんな人におすすめ:
- ミックス・マスタリング作業がメイン
- ヘッドホンアンプや高品質なオーディオインターフェースを持っている
- 最高レベルの解像度を求めている
ATH-R70xを使うには
470Ωという高インピーダンスのため、十分な駆動力が必要です。オーディオインターフェースによっては音量が取れない場合があるので、専用のヘッドホンアンプの使用をおすすめします。
11. beyerdynamic DT 990 PRO(開放型)
価格:約15,000円〜18,000円
- タイプ:開放型
- インピーダンス:250Ω
- 周波数特性:5Hz〜35,000Hz
- 重量:約250g
特徴:
DT 770 PROの開放型バージョン。密閉型と開放型の中間的な音で、万能性が高い機種です。
- 高域がやや強調されているが、刺さる感じはない
- DT 770とDT 880の中間的な音質
- 広い音場感でミックス作業に最適
- ベロア素材のイヤーパッドで快適
こんな人におすすめ:
- DT 770 PROが気に入っているが開放型も試したい
- 特定の作業に特化せず、オールラウンドに使いたい
12. SENNHEISER HD 600(開放型)
価格:約35,000円〜40,000円
- タイプ:開放型
- インピーダンス:300Ω
- 周波数特性:12Hz〜40,500Hz
- 重量:約260g(ケーブル除く)
特徴:
1997年発売のロングセラー機種。オーディオファイルとプロエンジニアの両方から支持される名機です。
- 極めてニュートラルな音質
- 「リファレンス」として世界中で使われている
- 全帯域にわたって一切の色付けがない
- 交換パーツが豊富で長期使用が可能
こんな人におすすめ:
- 最も正確なモニタリングを求めている
- 世界標準のリファレンス機が欲しい
- マスタリング作業がメイン
人気機種の詳細レビューと比較
ここでは、特に人気の高い4機種について、より詳しくレビューしていきます。
SONY MDR-CD900ST:日本のスタンダード
最大の強み:日本国内での圧倒的なシェア
MDR-CD900STの最大の特徴は、日本のほぼすべてのレコーディングスタジオに設置されているという事実です。これは音質が良いからというだけでなく、「業界の共通言語」として機能しているからです。
音質の特徴:
- 中高域がやや強調されており、ボーカルや楽器の細かいニュアンスが聴き取りやすい
- 低域は控えめで、タイトな印象
- 解像度は高いが、長時間聴くと疲れることがある
- 原音に忠実というより、「MDR-CD900ST」という音のキャラクターがある
耐久性とメンテナンス性:
すべてのパーツが交換可能で、イヤーパッド、ヘッドバンドクッション、ケーブル、ドライバーユニットまで個別に購入できます。30年以上使い続けているプロも珍しくありません。
向いている人・向いていない人:
向いている人
- 商業スタジオでの作業がある
- アニソン、J-POP制作
- レコーディング重視
- 日本の音楽制作の標準を知りたい
向いていない人
- EDM、ヒップホップなど低音重視の音楽
- 長時間のミックス作業
- 海外基準での制作を目指している
- 装着感を重視する(側圧が強め)
Audio-Technica ATH-M50x:世界で愛される万能機
最大の強み:バランスの良さとコストパフォーマンス
ATH-M50xは、MDR-CD900STに対抗する形で世界的に普及したモデルです。特に海外のYouTuberやDTMerの間で絶大な人気を誇ります。
音質の特徴:
- ほぼフラットな周波数特性だが、低域がやや強調されている
- 現代的な音楽制作(低音が重要な楽曲)に最適
- V字傾向(低音と高音がやや強調)だが、モニター用として十分な精度
- MDR-CD900STより聴きやすく、長時間使用でも疲れにくい
機能性:
- リケーブル対応で、3種類のケーブルが付属
- 90度回転するイヤーカップでDJプレイにも対応
- 折りたたみ可能で携帯性が高い
- 交換用イヤーパッドも入手しやすい
MDR-CD900STとの比較:
| 項目 | MDR-CD900ST | ATH-M50x |
|---|---|---|
| 低域 | 控えめ | しっかり出る |
| 中高域 | やや強調 | バランス良い |
| 遮音性 | 非常に高い | 高い |
| 装着感 | 側圧強め | 快適 |
| 携帯性 | 普通 | 優れている |
| 価格 | ¥16,000〜 | ¥15,000〜 |
| 国内普及率 | 極めて高い | 中程度 |
| 海外普及率 | 低い | 非常に高い |
向いている人:
- 現代的な音楽(EDM、ヒップホップ、トラップ)制作
- 海外の音楽制作トレンドを意識している
- 持ち運びも考えている
- コスパを重視
beyerdynamic DT 770 PRO:ドイツの堅牢な名機
最大の強み:圧倒的な耐久性と快適な装着感
DT 770 PROは、1980年代から製造されているロングセラーモデルです。プロのスタジオだけでなく、放送局や音響エンジニアにも愛用されています。
音質の特徴:
- 密閉型ながら開放的な音場感
- 100Hz以下の低域がやや強調されているが、ブーミーではない
- 高域は自然で刺さらない
- 解像度が高く、細かい音まで聴き取れる
装着感:
ベロア素材のイヤーパッドは、長時間使用でも蒸れにくく快適です。側圧も適度で、頭が痛くなりにくい設計。重量も270gと標準的で、バランスが取れています。
インピーダンスの選び方:
- 32Ω:スマホやタブレット、ポータブルプレーヤーで使う。移動用としても
- 80Ω:オーディオインターフェースで使う。DTM用途に最適
- 250Ω:ヘッドホンアンプを使う。最高音質を求める
最も人気があるのは80Ω版で、オーディオインターフェースで十分に駆動でき、音質も優れています。
向いている人:
- 長時間の作業が多い
- 堅牢で長く使える製品を求めている
- 密閉型でも開放的な音が好き
- 快適な装着感を重視
AKG K702:開放型の最高峰
最大の強み:圧倒的な音場感と定位の良さ
K702は、開放型モニターヘッドホンの代表格です。ミックス・マスタリング専用機として、世界中のプロエンジニアに使われています。
音質の特徴:
- スピーカーで聴いているかのような広大な音場
- 定位感が非常に掴みやすく、パンニングの確認に最適
- 中高域の解像度が極めて高い
- 低域はナチュラルだが、密閉型に比べると控えめ
- 一切の色付けがないフラットな音質
装着感:
わずか235gという軽量設計で、長時間使用でも疲れません。セルフアジャスト機構により、頭の大きさに自動的にフィットします。
K701との違い:
- K701:4芯の固定ケーブル、ブラウンのヘッドバンド
- K702:3芯の着脱式ケーブル、ネイビーのヘッドバンド
音質的にはほぼ同じですが、K702の方がケーブル交換が可能で実用的です。
向いている用途:
- ミックス作業(特にステレオイメージの確認)
- マスタリング
- 音の定位や空間の確認
- 細かいEQ調整
- リバーブやディレイの調整
向いていない用途:
- レコーディング(音漏れが大きい)
- 低音重視の音楽制作(EDM、ヒップホップなど)
- 騒がしい環境での使用
ポイント
K702は「ミックス専用機」として割り切って使うのがおすすめです。レコーディングには密閉型を使い、ミックスではK702を使うという使い分けが理想的です。
【用途別】おすすめモニターヘッドホンの選び方
DTMの作業は、大きく「レコーディング」「ミックス」「マスタリング」「配信」に分けられます。それぞれに適したヘッドホンを紹介します。
レコーディング用:密閉型が必須
レコーディング時には、音漏れしない密閉型が絶対条件です。開放型を使うと、ヘッドホンから漏れた音がマイクに入ってしまい、録音が台無しになります。
おすすめ機種:
- SONY MDR-CD900ST(¥16,000〜)
業界標準、どのスタジオでも使われている
ボーカルのニュアンスが聴き取りやすい - Audio-Technica ATH-M50x(¥15,000〜)
快適な装着感で長時間のレコーディングでも疲れない
現代的な音楽に最適 - beyerdynamic DT 770 PRO 80Ω(¥18,000〜)
ベロアパッドで快適
堅牢で取り回しに強い
ポイント:
- 遮音性が高いこと
- 装着感が良いこと(演奏者が長時間つけることもある)
- 耐久性があること(機材の出し入れで扱いが荒くなりがち)
ミックス用:開放型か高解像度の密閉型
ミックス作業では、音の定位や空間を正確に把握する必要があります。開放型の自然な音場が理想的ですが、環境によっては高解像度の密閉型も選択肢です。
開放型のおすすめ:
- AKG K702(¥25,000〜)
広大な音場と優れた定位感
軽量で長時間使用も快適 - Audio-Technica ATH-R70x(¥40,000〜)
最高レベルの解像度
フラットな周波数特性 - beyerdynamic DT 990 PRO(¥15,000〜)
コスパ優秀な開放型
バランスの良い音質
密閉型のおすすめ(音漏れできない環境):
- SONY MDR-M1ST(¥35,000〜)
現代的なフラット特性
密閉型とは思えない音場感 - YAMAHA HPH-MT8(¥20,000〜)
バランスの良い音質
解像度が高い
ポイント:
- 長時間使用しても疲れない
- 定位感が掴みやすい
- 周波数特性がフラット
マスタリング用:最高峰の開放型
マスタリングでは、最も正確なモニタリングが求められます。開放型の高級機が理想的です。
おすすめ機種:
- SENNHEISER HD 600(¥35,000〜)
世界標準のリファレンス機
極めてニュートラルな音質 - Audio-Technica ATH-R70x(¥40,000〜)
超高解像度
ハイレゾ対応 - AKG K702(¥25,000〜)
コスパに優れたマスタリング機
細かいニュアンスまで聴き取れる
ポイント:
- 極めてフラットな周波数特性
- 最高レベルの解像度
- 音の変化を敏感に感じ取れる
配信・ポッドキャスト用:万能な密閉型
配信やポッドキャスト録音では、音漏れしない密閉型で、かつモニタリングもしやすい機種が適しています。
おすすめ機種:
- Audio-Technica ATH-M50x(¥15,000〜)
万能性が高く、録音も編集も快適
装着感が良い - beyerdynamic DT 770 PRO 80Ω(¥18,000〜)
長時間配信でも疲れない
マイクに音が入らない遮音性 - SONY MDR-CD900ST(¥16,000〜)
声のニュアンスが聴き取りやすい
業界標準の安心感
ポイント:
- 装着感が良く、長時間使用できる
- 音漏れしない
- 声のモニタリングがしやすい
ヘッドホンアンプは必要?選び方とおすすめ機種
高インピーダンスのモニターヘッドホンを使う場合、ヘッドホンアンプが必要になることがあります。
ヘッドホンアンプが必要なケース
ヘッドホンアンプが必要な場合
- インピーダンスが250Ω以上のヘッドホンを使う
- オーディオインターフェースのヘッドホン出力では音量が足りない
- 複数のヘッドホンを同時に使いたい(レコーディング時など)
- より高音質を追求したい
ヘッドホンアンプが不要なケース
- インピーダンスが80Ω以下のヘッドホン
- 最近のオーディオインターフェースを使用している(多くは十分な駆動力がある)
- 音量が十分に取れている
おすすめヘッドホンアンプ
1. Behringer MICROAMP HA400(¥4,000〜)
- 4系統の独立した出力
- レコーディング時に複数人でモニタリング可能
- 超低価格
2. Mackie HM-4(¥10,000〜)
- 4系統のステレオ出力
- 各チャンネルで音量調整可能
- 堅牢な筐体
3. PreSonus HP4(¥15,000〜)
- 高音質なヘッドホンアンプ
- 4系統の独立出力
- ステレオ/モノラル切り替え可能
4. SPL Phonitor Mini(¥70,000〜)
- プロ仕様の高品質アンプ
- クロスフィード機能搭載
- ヘッドホンでもスピーカーのような定位感を実現
選び方のポイント:
- 用途:個人使用なら1系統、レコーディングなら複数系統
- 予算:入門用なら1万円以下、本格的なら3万円以上
- 音質:駆動力だけでなく、音質の向上も期待できる
まとめ:あなたに最適なモニターヘッドホンを選ぼう
モニターヘッドホン選びは、DTMにおいて最も重要な決断の一つです。この記事で紹介したポイントを振り返りましょう。
【予算別】おすすめの1台
〜1万円:
- AKG K240 Studio:コスパ最強の半開放型
1〜2万円:
- 初心者・レコーディング重視:SONY MDR-CD900ST
- 現代的な音楽制作:Audio-Technica ATH-M50x
- 快適性重視:beyerdynamic DT 770 PRO 80Ω
2〜3万円:
- ミックス作業メイン:AKG K702
- バランス重視:YAMAHA HPH-MT8
3万円以上:
- 密閉型の最高峰:SONY MDR-M1ST
- 開放型の最高峰:Audio-Technica ATH-R70x
- 世界標準のリファレンス:SENNHEISER HD 600
【用途別】おすすめの組み合わせ
レコーディング+ミックス両方やりたい:
- 1台目:Audio-Technica ATH-M50x(密閉型・万能)
- 2台目:AKG K702(開放型・ミックス専用)
本格的なスタジオ環境を目指す:
- レコーディング用:SONY MDR-CD900ST
- ミックス用:Audio-Technica ATH-R70x
予算を抑えて始めたい:
- 1台目:AKG K240 Studio
- 慣れてきたら:密閉型か開放型の定番機を追加
最後に:試聴してから決めるのが理想
可能であれば、楽器店やオーディオショップで実際に試聴してから購入することを強くおすすめします。音の好みは人それぞれで、スペックだけでは分からない部分もあります。
また、装着感も実際につけてみないと分かりません。長時間使うものなので、快適性は非常に重要です。
モニターヘッドホンは投資です
モニターヘッドホンは消耗品ではなく、投資です。良い機材を使えば、それだけ良い音楽を作れるようになります。
最初から高価なモデルを買う必要はありませんが、自分の予算の中で最良の選択をすることで、音楽制作のクオリティは確実に向上します。
この記事があなたのモニターヘッドホン選びの参考になれば幸いです。素晴らしい音楽制作ライフを!
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