コンプレッサーは、DTM制作において最も重要かつ多用されるエフェクトの一つです。ボーカル、ドラム、ベース、マスターバスなど、あらゆるトラックでダイナミクスを整え、ミックス全体の音圧とバランスを向上させます。
しかし、コンプレッサーには様々なタイプがあり、それぞれ音質特性や用途が異なります。VCA、FET、Optical、Variable-Muといったタイプの違いを理解し、適切なコンプレッサーを選ぶことが、プロレベルのミックスを実現する鍵となります。
この記事では、無料コンプレッサー10選と有料コンプレッサー10選、合計20個のVSTプラグインを厳選して紹介します。また、伝説的なハードウェアコンプレッサー(1176、LA-2A、Fairchild 670、SSL Bus Compressor等)のエミュレーションプラグインについても詳しく解説します。
この記事でわかること
- コンプレッサーのタイプ別特徴(VCA、FET、Optical、Variable-Mu)
- 伝説的なハードウェアコンプレッサーの音質とエミュレーションプラグイン
- 無料コンプレッサープラグイン10選(ダウンロード先・使い方付き)
- 有料コンプレッサープラグイン10選(価格・特徴・推奨用途)
- 用途別おすすめコンプレッサー(ボーカル、ドラム、ベース、マスターバス)
- 無料vs有料の音質差とステップアップのタイミング
コンプレッサーのタイプ別特徴
なぜタイプが重要なのか
コンプレッサーは、単に音量を圧縮するだけのツールではありません。タイプによってレスポンスの速さ、倍音の付加、音の質感が大きく異なり、同じ設定でも全く違うサウンドになります。
プロのエンジニアは、楽器や楽曲のジャンルに応じて、最適なコンプレッサータイプを使い分けています。
VCAコンプレッサー
VCAコンプレッサーの特徴音質特性:
- 透明でクリーン、正確なコンプレッション
- 色付けが少なく、原音を保ちやすい
- 高速で正確なレスポンス
適した用途:
- 現代のポップス、EDM、ロック
- クリアなボーカル処理
- マスターバス(特にSSL Bus Compressor)
代表的なハードウェア:
- SSL Bus Compressor(Gシリーズ)
- API 2500
- dbx 160
おすすめプラグイン:
- SSL Native Bus Compressor – SSL Gシリーズの公式エミュレーション
- Arturia Comp VCA-65 – API 2500エミュレーション
- TDR Kotelnikov(無料) – トランスペアレントVCAコンプ
FETコンプレッサー
FETコンプレッサーの特徴音質特性:
- 速いアタック、パンチのあるサウンド
- アグレッシブな音作りが可能
- 倍音付加による音の太さ
適した用途:
- ボーカル(特にロック、ポップス)
- ドラム(スネア、キック、ドラムバス)
- エレキギター、ベース
代表的なハードウェア:
- Universal Audio 1176(最も有名なFETコンプ)
- Empirical Labs Distressor
おすすめプラグイン:
- Universal Audio 1176 – 本家UADの1176
- Waves CLA-76 – 1176エミュレーション、定番中の定番
- Arturia Comp FET-76 – 1176クローン
- Klanghelm MJUC(有料)- ビンテージFETサウンド
Opticalコンプレッサー
Opticalコンプレッサーの特徴音質特性:
- 滑らかで自然、ゆっくりしたレスポンス
- 音楽的で耳に優しいコンプレッション
- ビンテージな温かみ
適した用途:
- ボーカル(特にバラード、ジャズ)
- ベース
- アコースティック楽器(ピアノ、ギター)
代表的なハードウェア:
- Teletronix LA-2A(最も有名なOpticalコンプ)
- Tube-Tech CL 1B
おすすめプラグイン:
- Universal Audio LA-2A – 本家UADのLA-2A
- Waves CLA-2A – LA-2Aエミュレーション
- Softube Tube-Tech CL 1B – ビンテージOptical
Variable-Muコンプレッサー
Variable-Muコンプレッサーの特徴音質特性:
- ビンテージな温かみ、倍音付加
- 滑らかで音楽的なコンプレッション
- 真空管回路による独特の質感
適した用途:
- マスターバス(ビンテージサウンド志向)
- ステムバス(ドラムバス、ボーカルバス)
- クラシック、ジャズ、ビンテージロック
代表的なハードウェア:
- Fairchild 670(最も高価で伝説的なコンプ)
- Manley Variable Mu
おすすめプラグイン:
- Universal Audio Fairchild 670 – 本家UADのFairchild
- Waves PuigChild 670 – Fairchildエミュレーション
- Arturia Comp TUBE-STA – Variable-Muスタイル
無料コンプレッサープラグイン10選
プロレベルのコンプレッションが可能な、高品質な無料プラグインを10個厳選しました。
1. TDR Kotelnikov
タイプ: VCA風トランスペアレントコンプ
特徴: 透明で音楽的、無料とは思えないクオリティ
用途: マスターバス、ボーカル、あらゆるトラック
ダウンロード: Tokyo Dawn Records公式サイト
対応OS: Windows、Mac(VST、AU、AAX)
2. Molot(Vladg Sound)
タイプ: ビンテージスタイルコンプ
特徴: ロシア製の無料コンプ、倍音豊か
用途: ドラム、ベース、ビンテージサウンド
ダウンロード: Vladg Sound公式サイト
対応OS: Windows、Mac
3. Rough Rider 3(Audio Damage)
タイプ: シンプルなコンプ
特徴: 手軽で使いやすい、初心者にもおすすめ
用途: ドラム、パラレルコンプレッション
ダウンロード: Audio Damage公式サイト
対応OS: Windows、Mac
4. DC1A(Klanghelm)
タイプ: ワンノブコンプ
特徴: 超シンプル操作、INPUTノブだけでコンプ量調整
用途: 初心者向け、素早い処理
ダウンロード: Klanghelm公式サイト
対応OS: Windows、Mac
5. MCompressor(MeldaProduction)
タイプ: 多機能無料コンプ
特徴: 機能豊富、サイドチェイン対応
用途: あらゆるトラック、詳細な調整が必要な場面
ダウンロード: MeldaProduction公式サイト
対応OS: Windows、Mac
6. OTT(Xfer Records)
タイプ: マルチバンドコンプ
特徴: Ableton Live標準エフェクトの移植版
用途: EDM、電子音楽、音圧マキシマイズ
ダウンロード: Xfer Records公式サイト
対応OS: Windows、Mac
7. TSC(Klevgrand)
タイプ: シンプルコンプ
特徴: クリーンでモダンなサウンド
用途: ボーカル、楽器トラック全般
ダウンロード: Klevgrand公式サイト
対応OS: Windows、Mac、iOS
8. Density mkIII(Variety of Sound)
タイプ: ビンテージコンプ
特徴: アナログ感のあるサウンド
用途: ドラム、ベース、ビンテージサウンド
ダウンロード: Variety of Sound公式サイト
対応OS: Windows
9. Frontier(D16 Group)
タイプ: リミッター兼コンプ
特徴: トランスペアレント、音質劣化少ない
用途: マスターバス、リミッター用途
ダウンロード: D16 Group公式サイト
対応OS: Windows、Mac
10. ReaComp(Reaper付属)
タイプ: 標準的なコンプ
特徴: Reaper DAW付属、ReaPlugs経由で他DAWでも使用可能
用途: 基本的なコンプレッション全般
ダウンロード: Reaper公式サイト(ReaPlugs)
対応OS: Windows、Mac
有料コンプレッサープラグイン10選
プロフェッショナルな現場で使われる、定番&最新の有料コンプレッサープラグインを紹介します。
1. FabFilter Pro-C 2
タイプ: モダンデジタルコンプ(複数タイプ選択可)
特徴: 視覚的でわかりやすいUI、8つのコンプタイプ搭載
用途: あらゆるトラック、学習用にも最適
価格: 約20,000円
公式サイト: FabFilter
2. Waves CLA-76(1176エミュレーション)
タイプ: FET(1176エミュレーション)
特徴: 定番中の定番、Chris Lord-Alge監修
用途: ボーカル、ドラム、アグレッシブなサウンド
価格: 約10,000円(セール時$29〜)
公式サイト: Waves Audio
3. Waves CLA-2A(LA-2Aエミュレーション)
タイプ: Optical(LA-2Aエミュレーション)
特徴: 滑らかで自然なコンプレッション
用途: ボーカル、ベース、アコースティック楽器
価格: 約10,000円(セール時$29〜)
公式サイト: Waves Audio
4. Universal Audio 1176
タイプ: FET(本家UAD)
特徴: 最も正確な1176エミュレーション
用途: ボーカル、ドラム、ベース
価格: UADインターフェース必須、約30,000円〜
公式サイト: Universal Audio
5. Universal Audio LA-2A
タイプ: Optical(本家UAD)
特徴: 最も正確なLA-2Aエミュレーション
用途: ボーカル、ベース
価格: UADインターフェース必須、約30,000円〜
公式サイト: Universal Audio
6. Empirical Labs Arousor
タイプ: FET風(パラレルコンプ特化)
特徴: パラレルコンプレッションの決定版
用途: ドラム、パラレル処理
価格: UADインターフェース必須、約35,000円〜
公式サイト: Universal Audio
7. Softube Tube-Tech CL 1B
タイプ: Optical(ビンテージ)
特徴: ビンテージOpticalの代表格
用途: ボーカル、マスターバス
価格: 約25,000円
公式サイト: Softube
8. SSL Native Bus Compressor
タイプ: VCA(SSL Gシリーズ)
特徴: SSL公式のBus Compエミュレーション、グルー効果抜群
用途: マスターバス、ドラムバス、ミックスバス
価格: 約30,000円
公式サイト: Solid State Logic
9. iZotope Neutron Compressor
タイプ: AI搭載デジタルコンプ
特徴: AIアシスト機能で初心者にも優しい
用途: あらゆるトラック、学習用
価格: Neutron 4バンドル 約25,000円
公式サイト: iZotope
10. Arturia Comp VCA-65
タイプ: VCA(API 2500エミュレーション)
特徴: パンチとグルーのバランスが絶妙
用途: ドラム、マスターバス
価格: 約15,000円
公式サイト: Arturia
用途別おすすめコンプレッサー
ボーカル
- 1176(FET) – アタック感、明瞭さ
- LA-2A(Optical) – 滑らかさ、自然さ
- FabFilter Pro-C 2 – 汎用性
ドラム
- 1176(FET) – スネア、キック
- SSL Bus Compressor(VCA) – ドラムバス全体
- API 2500(VCA) – パンチとグルー
ベース
- LA-2A(Optical) – 滑らかな低域
- API 2500(VCA) – タイトな低域
マスターバス
- SSL Bus Compressor(VCA) – グルー効果
- Fairchild 670(Variable-Mu) – ビンテージサウンド
- FabFilter Pro-C 2 – モダンでクリーン
コンプレッサー実践テクニック
ゲインリダクション3-6dBが目安
コンプレッサーのゲインリダクション(GR)は、3-6dBが目安です。10dBを超えるGRは、音が不自然になる可能性が高いので注意しましょう。
アタックタイムでトランジェントを制御
- 速いアタック(1-10ms): トランジェントを抑え、音を丸く
- 中程度のアタック(10-30ms): バランス型
- 遅いアタック(30-100ms): トランジェントを保ち、パンチを残す
リリースタイムでグルーヴを調整
- 速いリリース(50-150ms): 音楽的、グルーヴ感
- 中程度のリリース(150-300ms): 汎用的
- 遅いリリース(300ms以上): 滑らか、自然
パラレルコンプレッションの活用
パラレルコンプレッション(ニューヨークコンプ)原音とコンプレッション音をブレンドする上級テクニックです。
- トラックをコピー(またはAuxセンド)
- コピーしたトラックに強めのコンプ(レシオ8:1〜10:1、GR 10-15dB)
- 原音とコンプ音をミックス(コンプ音20-40%程度)
ドラムに特に効果的です。
マルチバンドコンプレッションの使い方
マルチバンドコンプの注意点
マルチバンドコンプレッションは強力ですが、かけすぎると位相問題や不自然な音になります。マスタリング段階での微調整程度に留めましょう。
無料vs有料の違い
音質の差
音質面での違い
- 倍音特性: 有料版は倍音のモデリングが精密
- トランスペアレンシー: 有料版は透明度が高い
- レスポンス: 有料版はアタック/リリースの挙動が正確
ただし、TDR Kotelnikovなど高品質な無料コンプも存在します。
機能の差
- サイドチェイン: 有料版は詳細な設定可能
- ミッドサイド処理: 有料版に多い機能
- ビジュアルフィードバック: 有料版の方が視覚的
- プリセット数: 有料版の方が豊富
CPU負荷の差
有料版の方が最適化されており、CPU負荷が低い傾向にあります。
有料版へのステップアップタイミング
有料版にステップアップすべきタイミング
- クライアントワーク(商用)を始めるとき
- 特定のビンテージサウンドが必要なとき(1176、LA-2A等)
- 無料版の機能に物足りなさを感じたとき
- プロレベルの音質を追求したいとき
anip-blog既存記事との連携
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まとめ:コンプレッサー選びの5つのポイント
- 無料コンプでも十分なケースが多い – TDR Kotelnikovなど高品質な無料コンプを活用
- 有料コンプは特定のキャラクターが欲しいときに – 1176、LA-2Aなどのビンテージサウンドが必要なら投資価値あり
- タイプを理解して使い分ける – VCA、FET、Optical、Variable-Muの特性を把握
- 用途に応じた選択 – ボーカルには1176やLA-2A、マスターバスにはSSL Bus Comp
- セール時期を狙う – ブラックフライデー、サイバーマンデー等で大幅割引
次のステップこの記事で紹介した無料コンプレッサーをまずダウンロードし、実際に試してみましょう。無料版で基本を習得してから、必要に応じて有料版にステップアップすることをおすすめします。
特にTDR Kotelnikovは無料とは思えないクオリティなので、今すぐダウンロードして使ってみてください。
コンプレッサーは、DTMの中で最も奥が深いエフェクトの一つです。タイプ別の特性を理解し、適切なコンプレッサーを選ぶことで、ミックスのクオリティは劇的に向上します。
この記事で紹介した20個のコンプレッサープラグインを参考に、自分の楽曲に最適なコンプレッサーを見つけてください。








