はじめに:アニメ『血界戦線』が生んだ名曲の魅力
「なぜこの楽曲は、聴くたびに新しい発見があるのだろう?」
UNISON SQUARE GARDENの『シュガーソングとビターステップ』は、アニメ『血界戦線』のエンディングテーマとして2015年にリリースされ、瞬く間に大ヒットを記録しました。この楽曲の魅力は、単なるキャッチーなメロディだけではありません。複雑な楽曲構造、巧みなコード進行、そして日常と非日常を行き来する歌詞の世界観が見事に融合した、音楽的完成度の高い作品なのです。
楽曲基本情報
 • アーティスト:UNISON SQUARE GARDEN
 • 作詞・作曲:田淵智也
 • キー:E♭m(変ホ短調)
 • テンポ:132 BPM
 • 拍子:4/4
 • リリース:2015年5月20日
この記事では、音楽理論的観点から『シュガーソングとビターステップ』の楽曲構造を徹底的に分析し、なぜこの楽曲がこれほどまでに印象的で中毒性があるのか、その秘密を解き明かしていきます。
楽曲構造の全体像:計算された構成の妙
セクション構成と展開
楽曲構成(演奏時間:約3分54秒)
- イントロ(0:00-0:08):8小節
 - Aメロ(0:08-0:24):16小節
 - Bメロ(0:24-0:40):16小節
 - サビ(0:40-1:03):23小節
 - 間奏(1:03-1:11):8小節
 - Aメロ2(1:11-1:27):16小節
 - Bメロ2(1:27-1:43):16小節
 - サビ2(1:43-2:06):23小節
 - ブリッジ(2:06-2:23):17小節
 - Cメロ(2:23-2:46):23小節
 - ラストサビ(2:46-3:31):45小節(2回繰り返し)
 - アウトロ(3:31-3:54):23小節
 
この構成で特筆すべきは、一般的なJ-POPのフォーマット(Aメロ→Bメロ→サビ)を基本としながらも、ブリッジやCメロを効果的に配置することで、楽曲に深みと展開の豊かさを与えている点です。
セクション別の役割と特徴
各セクションの音楽的機能
- Aメロ:物語の導入、日常的な世界観の提示
 - Bメロ:緊張感の構築、サビへの期待感醸成
 - サビ:楽曲のメインメッセージ、感情の爆発
 - ブリッジ:転換点、新たな視点の提供
 - Cメロ:クライマックスへの最終準備
 
コード進行分析:複雑性と親しみやすさの絶妙なバランス
イントロ・Aメロのコード進行
イントロ(8小節)
1 2  | | E♭m7   | A♭7    | D♭M7   | G♭M7   | | E♭m7   | A♭7    | D♭M7   | G♭M7   |  | 
イントロでは、E♭m7から始まる進行が印象的です。これは楽曲全体の雰囲気を決定づける重要な要素で、マイナーキーの持つ切なさと、7thコードが生み出す都会的な洗練さを同時に表現しています。
Aメロ(16小節)
1 2 3 4  | | E♭m7   | A♭7    | D♭M7   | G♭M7   | | E♭m7   | A♭7    | D♭M7   | G♭M7   | | Fm7(♭5) | B♭7    | E♭m7   | E♭m7   | | Fm7(♭5) | B♭7    | E♭m7   | E♭m7   |  | 
Bメロ・サビの転調と展開
Bメロ(16小節)- 転調あり
1 2 3 4  | | GM7    | C7     | FM7    | B♭M7   | | E♭M7   | A♭7    | D♭M7   | G♭M7   | | GM7    | C7     | FM7    | B♭M7   | | E♭M7   | A♭7    | D♭M7   | B♭7    |  | 
Bメロでは、突如としてGM7が登場します。これはE♭mから見ると、かなり遠い調への転調となります。この大胆な転調が、楽曲に独特の浮遊感と予測不可能性を与えています。
転調のポイント
 Bメロの転調は、アニメ『血界戦線』の世界観(日常と非日常が交錯する街)を音楽的に表現しているとも解釈できます。突然の転調が、まさに「異世界への扉が開く」ような効果を生み出しています。
サビの圧倒的なエネルギー
サビ(23小節)
1 2 3 4 5 6  | | E♭M7   | Cm7    | Fm7    | B♭7    | | E♭M7   | Cm7    | Fm7    | B♭7    | | A♭M7   | Gm7    | Cm7    | Fm7    | | A♭M7   | B♭7    | E♭M7   | E♭M7   | | A♭M7   | B♭7    | E♭M7   | E♭M7   | | A♭M7   | B♭7    | E♭M7   |        |  | 
サビでは、E♭メジャーに転調し、明るく開放的な雰囲気に変わります。この明暗のコントラストが、「シュガーソング」と「ビターステップ」というタイトルの二面性を見事に表現しています。
リズムパターンとグルーヴ:踊りたくなる衝動の源泉
基本リズムパターン
ドラムパターンの特徴
- キック:4つ打ちを基本としつつ、シンコペーションを効果的に使用
 - スネア:2拍目と4拍目の基本に加え、16分音符のゴーストノート
 - ハイハット:16ビートの細かい刻みで推進力を生成
 - テンポ:132 BPMという絶妙な速さ(速すぎず遅すぎず)
 
ベースラインの動き
ベースラインは、ルート音を中心としながらも、要所要所でウォーキングベース的なアプローチを取り入れています。特にBメロからサビへの移行部分では、半音進行を効果的に使用し、セクション間の滑らかな接続を実現しています。
ベースラインの特徴的な動き
1 2 3  | Aメロ:E♭ - E♭ - A♭ - A♭ - D♭ - D♭ - G♭ - G♭(ルート中心) Bメロ:G - B - C - E - F - A - B♭ - D(動きのあるライン) サビ:E♭ - G - A♭ - A♭/B♭(オクターブジャンプあり)  | 
メロディ分析:歌いやすさと複雑さの共存
音域と跳躍
ボーカルメロディの特徴
- 音域:約1オクターブ半(B♭3〜F5)
 - 特徴的な跳躍:サビでの6度、オクターブジャンプ
 - リズミカルな要素:シンコペーション、付点音符の多用
 - 言葉との親和性:日本語の自然なイントネーションを活かした音程設定
 
フレーズ構造
メロディラインは、基本的に4小節を1フレーズとする構造を取っていますが、サビでは意図的にこの構造を崩し、予測不可能な展開を作り出しています。
歌詞と音楽の関係性:言葉と音の見事な融合
歌詞のテーマと音楽表現
歌詞の主要テーマ
- 日常と非日常の対比:「超天変地異みたいな狂騒にも慣れて」
 - 甘さと苦さの共存:「甘くて苦くて目が回りそうです」
 - 混沌と秩序:「最高常識的でしょ 不協和音のムード」
 - 継続と変化:「marmalade & sugar song, peanuts & bitter step」
 
これらのテーマは、音楽的にも見事に表現されています。転調による不安定感は「狂騒」を、メジャーとマイナーの行き来は「甘さと苦さ」を、複雑なコード進行は「不協和音のムード」を体現しています。
言葉のリズムと音楽のシンクロ
作詞の巧みさ
 田淵智也の歌詞は、単に意味を伝えるだけでなく、言葉自体が持つリズムや音響を最大限に活用しています。「シュガーソング」「ビターステップ」という対比的な言葉の組み合わせは、音的にも「シュ」「ビ」という破裂音から始まり、印象的なサウンドを作り出しています。
アレンジ分析:各楽器の役割と音色選択
楽器編成と音色
基本編成
- ギター:クリーントーンとクランチを使い分け
 - ベース:タイトでパンチのあるトーン
 - ドラム:アタック感のあるスネア、深みのあるキック
 - キーボード:エレピ、オルガン、シンセパッド
 - ブラスセクション:サビでの華やかさを演出
 
セクション別アレンジの変化
アレンジの展開
- イントロ・Aメロ:シンプルなバンドサウンド、空間を活かした配置
 - Bメロ:ギターのアルペジオ追加、緊張感の演出
 - サビ:全楽器フル稼働、ブラスセクションの追加
 - ブリッジ:一旦楽器を減らし、ダイナミクスを作る
 - Cメロ:新たなシンセ音色追加、最高潮への準備
 - ラストサビ:全ての要素を投入、圧倒的なエネルギー
 
プロダクション面の特徴:現代的なサウンドメイキング
ミキシングのポイント
音像配置と周波数バランス
- 低域:ベースとキックの住み分けが明確
 - 中域:ボーカルを中心に、ギターとキーボードが左右に配置
 - 高域:ハイハットとシンバルで空気感を演出
 - 空間系:適度なリバーブで奥行きを表現
 
ダイナミクスとコンプレッション
全体的にタイトなコンプレッションが施されており、現代的なラウドネスを実現しています。しかし、過度な圧縮は避けられており、楽曲の持つダイナミクスは十分に保たれています。
楽曲が持つ独自性:UNISON SQUARE GARDENらしさの結晶
バンドの特徴的要素
UNISON SQUARE GARDENの音楽的特徴
- 複雑なコード進行:ジャズ的な要素を取り入れた洗練された和声
 - 高度な演奏技術:各メンバーの卓越した技術力
 - キャッチーなメロディ:複雑さの中にある親しみやすさ
 - 独特の世界観:日常と非日常、現実と幻想の境界線上
 
楽曲の革新性
『シュガーソングとビターステップ』は、アニメタイアップ曲として、作品の世界観を見事に音楽で表現しながら、単体の楽曲としても高い完成度を誇ります。複雑な構造を持ちながらも、一度聴いたら忘れられないキャッチーさを併せ持つという、相反する要素の融合に成功しています。
演奏・カバーする際のポイント
各パート別演奏のコツ
ギター演奏のポイント
- コードボイシング:7thコードは省略せずフルで弾く
 - リズム:16ビートのカッティングを正確に
 - 音色:クリーンとクランチの使い分けを明確に
 - ソロ:メロディアスかつテクニカルなアプローチ
 
ベース演奏のポイント
- グルーヴ:ドラムとのタイトな連携
 - 音選び:コードトーンを意識した音使い
 - ダイナミクス:セクションごとの強弱を明確に
 - フィル:要所でのメロディアスなフレーズ
 
ドラム演奏のポイント
- 基本パターン:16ビートを安定して刻む
 - フィルイン:セクション間の繋ぎを滑らかに
 - ダイナミクス:音量差でメリハリをつける
 - グルーヴ:前ノリ過ぎず、適度なタメを作る
 
アレンジのアイデア
カバー・アレンジの提案
 • アコースティックバージョン:複雑なコードをそのまま活かしたジャズトリオ編成
 • エレクトロニックリミックス:BPMを上げてダンスミュージック化
 • オーケストラアレンジ:ブラスセクションを弦楽器に置き換え
 • ピアノソロ:コード進行の美しさを最大限に活かす
楽曲から学べる作曲・編曲のテクニック
応用可能な要素
作曲に活かせるポイント
- 転調の効果的な使用:予想外の展開で聴き手を引き込む
 - セクション構成の工夫:定型を基本にしつつ独自要素を追加
 - リズムパターンの変化:同じテンポでも異なるグルーヴを作る
 - 歌詞とメロディの一体化:言葉の持つリズムを活かす
 - ダイナミクスの設計:楽曲全体の起伏を意識的に作る
 
ジャンルを超えた普遍性
この楽曲が示すのは、複雑な音楽理論と大衆性は両立可能だということです。高度な技術や理論を使いながらも、それを聴き手に押し付けることなく、自然に楽しめる形に昇華させる。これこそが、プロフェッショナルな楽曲制作の真髄と言えるでしょう。
まとめ:時代を超える楽曲の条件
『シュガーソングとビターステップ』の楽曲分析を通じて見えてきたのは、優れた楽曲が持つべき要素の数々です。
名曲の条件
- ✅ 印象的なメロディライン
 - ✅ 洗練されたコード進行
 - ✅ 効果的な楽曲構成
 - ✅ 歌詞と音楽の見事な融合
 - ✅ 高い演奏技術と編曲力
 - ✅ 時代性と普遍性のバランス
 
この楽曲は、これら全ての要素を高いレベルで実現しており、だからこそリリースから年月が経っても色褪せることなく、多くの人々に愛され続けているのです。
次のステップ
 この分析を参考に、ぜひ実際に楽曲を聴き直してみてください。理論を知った上で聴くと、今まで気づかなかった細部の工夫や、音楽的な仕掛けを発見できるはずです。そして、自身の楽曲制作やカバー演奏に、ここで学んだテクニックを活かしてみてください。
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